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『東京裁判』の授業 討論資料     齋藤武夫先生 作成


◆検察側の意見(アメリカ)

 日本は,太平洋戦争において,「平和に対する罪」とむごたらしい「戦争犯罪」を犯しました。したがって,当時日本の指導者だった被告たちは明らかに有罪であり,日本という国の代表として罪をつぐなうべきだと主張します。

【平和に対する罪】
1. 一方的に戦争をしかけて平和を破ったのは日本です。それは1941年の12月8日でした。日本海軍の航空部隊がいきなりハワイの真珠湾にあったアメリカ海軍基地を攻撃してきました。この戦争は,明らかに日本国政府の命令で引き起こされたのです。日本が攻めてこなければこの戦争は起きていないのですから,日本が平和に対する罪を犯したことは明らかです。
しかも,日本から「戦争を始める」という手紙が届いたのは,その攻撃が始まった後でした。ひきょうな不意打ちであり,戦争のルールに違反することでした。

2. 日本の「平和に対する罪」は,中国への侵略にも当てはまります。侵略とは,理由もなく一方的によその国に攻め込んで,そこを自分のものにしてしまうことです。つまり,日本の戦争は自分勝手で強盗のような戦争だったのです。
1928年に結ばれたパリ不戦条約で,世界の国々はこの侵略戦争を禁止することにしました。日本もこの平和のための条約を結んでいました。つまり,日本はこの条約に違反して平和に対する罪を犯したのです。
日本はこのことを世界中から非難されると,国際連盟を脱退してしまいました。国際連盟とは世界平和を守るためにつくられた話し合いの場です。自分の意見が通らないからと言ってすぐに脱退してしまったことこそ,日本の側に平和を守ろうという気持ちがなかった何よりの証拠なのです。

【戦争犯罪】
3. 戦争にもルールがあります。兵隊ではないふつうの市民を殺したり,捕虜に残虐な仕打ちをしたりするのは禁止されています。
日本軍はこのルールを破りました。中国の市民を殺したり乱暴したりしました。これが戦争犯罪です。
なかでも南京大虐殺はひどく,何万人もの市民が日本軍によって残虐に殺されました。これはいくら戦争でも許されません。
それ以外にもたくさんあります。日本軍が東南アジアを占領した時,わが連合軍の捕虜たちが日本軍によって虐待されました。フィリピンでは,大勢の人々が戦いに巻き込まれて死にました。この戦争犯罪に責任のある被告たちが有罪であることは明らかです。したがって,被告全員の有罪を主張します。


◆弁護側の意見(日本)

 日本だけがこの戦争に責任があり,日本だけが戦争のルールを破った,という検察側の意見は明らかに事実と違います。初めから日本だけを被告にしたこの裁判は正しい裁判ではありません。

【平和に対する罪】
1. 確かに先に攻撃したのはわが国日本です。しかし,それは自分の国を守るための戦いでありました。また,パリ不戦条約も国を守る防衛戦争は禁止してはいません。
わが国は貿易しなければ生きていけません。その貿易の道を閉ざして,日本が生きていけないように追い込んだのは,アメリカを初めとする連合国の方なのです。
日本は平和を求めて何度もアメリカと話し合おうとしましたが,相手にされませんでした。生きるためにやむなく戦争という手段にうったえたのです。この戦争の責任は,分かっていて日本をそこまで追いつめたアメリカにあるのです。

2. 中国との戦争についても同じです。わが国が日露戦争で手に入れた満州鉄道や鉱山を経営する権利,そこで日本人が生活する権利などは,中国も認め条約に決められた正当な権利でした。それが,中国人によって攻撃されたり日本人が殺されたりしました。戦争はこの日本の権利と日本人の命を守るために始まったのです。この戦争が中国の領土を奪うための戦争ではないことは,事実を調べれば分かることです。
西洋諸国もこうした戦争を中国やアジアでやってきたのですから,日本の立場はよく理解できるはずです。わが国が国際連盟を脱退したのも,あなたたちが自分たちには認めていることを,日本にだけ認めないという不公平な態度をとったからです。国際連盟にアジアの国々がほとんど入っていなかったのは,アジアがあなた方の植民地だったからです。国際連盟に加わっていた国だけが平和を大切にしていたというのは全くのでたらめです。
【戦争犯罪】
3. 南京大虐殺は事実と違うので認められませんが,わが国の軍隊もときにルールを守らなかったことがあったことは反省します。しかし,それはどんな国にもあった過ちです。
 いや,むしろ裁かれなくてはならないのは連合国側です。東京大空襲こそ市民の大虐殺です。また,原子爆弾ほど人の道に反したむごたらしい犯罪があるでしょうか。ソ連は戦争が終わった今も,日本人捕虜をシベリアで虐待しています。
日本だけが悪いという検察側の主張は間違っています。